『(日本人)』

(日本人)(日本人)
(2012/05/11)
橘 玲

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 経済作家の橘玲さんの最新刊です。タイトルは「かっこにっぽんじん」と読みます。副題はありませんが、本のカバーには「従来の日本人をすべ覆すまったく新しい日本人論!!」とあります。

 カバーの文字通り、これまで論じられてきた日本人論に対して、橘玲さんが学術的・科学的な研究・調査資料をもとにそれを覆し、本当の日本人論(日本人像)について説いたもの。資料の中には、『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』などで引用された遺伝や進化論などの研究が、本書でも引用されています。

 ただ、前回と違うのは、それらの理論を人間の能力全般に当てはめたものではなく、日本人の文化や価値観に当てはめたものとなっています。


 それでは内容をザッと紹介。本書の内容は大きく分けて3つ。

 ひとつは「LOCAL」。これまで西洋・東洋問わず認識されてきた日本人論について、新渡戸稲造の『武士道』の内容や第二次世界大戦後のマッカーサー統治などの歴史的な観点、脳のプログラムや進化論などの科学的な観点をもとに、これまでの論説や俗説がまったく違うものであることを説明しています。

 この単元を簡単に要約すると、以下のようになります。

・これまで語られてきた、(「ムラ社会を好む」などの)日本人像は、海外から輸入されて浸透してきた理論だった。

・日本人は古くから権力や権威、イエ(共同体社会)、ムラ社会(流動性の低い集団社会)までも嫌う、稀有な個人主義だった。

・日本の社会は「水(世間=日常)と空気(世俗=その場の雰囲気や流れ)」でできており、世俗に従いながらも、損得勘定の思考が強く、誰よりも「自分らしく生きたい」国民だった。


 私たちがよく知る日本人像は、戦後ルース・ベネディクトが書いた『菊と刀』の内容から影響された(輸入された)といいます。元々の日本人像とは異なっていました。日本人は欧米人以上に個人主義の思想が強く、世俗社会に縛られでもしないと、1つの共同体も維持できないほどの強固なものだといいます。

 ふたつめは「GLOBAL」。文明や経済の発達事情やイノベーション、欧米で議論・展開されている政治哲学の思想形態などをもとに、日本の政治・経済の散々たる失敗やネガティブな事情について、解説しています。

 この単元を簡単に要約すると、以下のようになります。

・「グローバリズム(自由貿易)」は、人々の経済的幸福をもたらすユートピア思想。

・これからの社会的権力・思想は、「グローバルスタンダード(アメリカ社会のような多種多様な人々・共同体のある社会)」で物事を議論しなければならない。

・日本の政治の失敗は「省庁別の官僚同士の争いによる機能不全」、経済の失敗は、「守旧派による既得権益を守る働きによる弊害」だった。


 経済のグローバル化に伴い、「グローバリズム(自由貿易)」が要求・実現され、(理論上は)経済格差の縮小や需要・供給ともに拡大などの経済的な恩恵がもたらされるといいます。これが本書で述べられているユートピア思想です。

 グローバリズムの下での社会では、多種多様な人々や共同体同士でも混乱しない絶対的な権力が必要になってきます。これが「グローバルスタンダード」です。これまで人々を支配してきたローカルルール(特定の地域や人々にのみ適応できるルール)は通用しなくなり、社会がグローバル化になるにつれて、グローバルスタンダードは必然的に浸透していきます。

 しかしながら、日本社会ではグローバルスタンダードは浸透しているとは言えません。日本政府の組織構造によって引き起こされた、政府を圧迫するほどのを官僚側の強い権力と、省庁同士間での利権争いによる政府弱体化。年功序列や終身雇用などの日本独自の雇用慣例によって引き起こされた、雇用の流動性低下と創設難航。これらの歴史的背景や者気構造によって、これまでグローバルスタンダードを日本社会に浸透するための機会を逃してしまったといいます。

 さいごは「UTOPIA」。橋下大阪市長による政治思想(ここでは「ハシズム」と呼んでいます)などを例に、今後の政治哲学や社会思想の在り方をどう考えるのか。橘玲さんなりの考えをもとに、提示されています。

 この単元を簡単に要約すると、以下のようになります。

・現代社会は、これまでの土地開拓・科学技術・教育の発展や成長を望めない「大いなる停滞」の時代を迎えてしまった。

・福祉国家を掲げたリベラリズムは破綻し、ポスト福祉国家として、ネオリベ≒ネオコンが台頭しつつある。

・保守主義/伝統主義でも近代主義でもない、新たな次元の日本人が生まれる時――自由のユートピアへ。



 ほとんどの先進国では大幅な経済成長や株価上昇が望めなくなりました。これは経済に留まらず、歴史的にこれまで過去に発展や成長を望めた事象が、現代ではほとんど望めなくなりました。アメリカ西部開拓や大航海時代などの土地開拓、ロケット開発などの科学技術、大学進学などの教育。どれも現在では大きな成果が見られなくなってきています(現在では「世紀の大発見!」と呼べるほどのものが特にありません)。

 これは政治も同じで、大した進展が見られません。先進国のほとんどが福祉国家を掲げるリベラリズムの政治思想を掲げていますが、スウェーデンなどの北欧諸国を除いて、ほとんど実現していません。現在では、ハシズムに代表されるような「ネオリベラリズム」などの自由主義を重視した政策がもくもくと支持される傾向にあるといいます。ハシズムをはじめとしたネオリベは様々な議論において、相手の意見を包摂できるほどの説得力があり、政治思想の中ではかなり実現性のある思想として、書かれています。

 とこれまでいくつかの政治思想などが出てきましたが、実際のところ私たちは何をすればいいのか? 橘玲さんは「伽藍(ムラ社会の閉鎖的空間)を出て、保守主義/伝統主義でも近代主義でもない、自由のユートピアへ向おう!」と主張しています。インターネットの登場により、私たちは電脳空間での活動に応じて、ポジティブな評価を得ることができるようになりました。そのおかげでバザール(入退室が自由な空間)ができ、その空間での活躍・生活を目指すことで、今までの以上にポジティブな人生・社会を築くことができるといいます。


 読み終えた感想ですが、面白かったです。ただ、書かれている内容のいくつかは、橘玲さんの過去の著作でもかかれているものがあります。そのため、彼の本を何冊か読んだ私には新鮮さに若干欠けました。

 本の分量もけっこう多く、内容を理解するのにも時間がかかりました。ただ、要所要所で単元のまとめが書かれており、それのおかげで中身をザッと確認できました(それでも、ある程度読み返す必要があるのですが…)。

 総評としては、物凄くとは言いませんが、それなりにオススメできる本。橘玲さんの本が好きな方なら是非どうそ。



橘玲 公式サイト



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