橘玲さんのベーシックインカムに対する私の意見(2)

前回の記事はこちら


 前回は橘玲さんの「素晴らしきベーカムの未来」に対する私の意見を書いた。今回は橘玲さんのもう一つの記事である「「素晴らしきベーカムの未来」の追記」についての記事に対する意見を書いていく。

 この記事で、橘玲さんはベーシックインカムに対する対する反対意見や見解についての追記を、以下のように書いている。

(1)日本国憲法の定める「健康で文化的な最低限度の生活」とは、「所得」の保障ではなく、「効用水準」の保証である。
(2)働くと給付が減額される生活保護制度が「貧困の罠」だとしても、負の所得税ですべての問題が解決するわけではない。
(3)低所得者の労働インセンティブは、負の所得税やベーシックインカムでなくても、勤労所得税額控除で改善可能だ。
(4)低所得者層に対する一律の現金給付は望ましくない。
(5)現物給付よりも現金給付が優れているとはかぎらない。
(6)勤労者への所得税額控除が望ましいとしても、不正受給の問題は避けられない。
(7)公的年金による最低所得保障は一種のベーシックインカムだが、大規模なモラルハザードを引き起こす。



 上記の各項目について、私なりの意見や見解を一つ一つ書いていく。

 まず1番の項目だが、「効用水準」の保障として幸福度を挙げているが、そもそも幸福度自体抽象的なものである。いくら数値化しても、それが必ずしも社会における格差や所得の不満を改善できるものにならない。何によって幸福を感じるかはさまざまな要素があって決められるものにも関わらず、それを限定して一定の幸福度に到達しようとすること自体矛盾がある。

 橘玲さんの記事には、生活保護受給で幸福度が3になることが述べられているが、そこに就労の義務を加えては、そもそもベーシックインカムの概念にそぐわない。それは現行制度における生活保護の範疇であり、自由を最大限保障するベーシックインカムにあてはまることでは決してない。

 2番については、以下のような詳細述べられている。ここでは主に負の所得税のことから就労インセンティブの変化について、書かれている。

たとえば年収300万円の者が、負の所得税の導入で、年収250万円でも50万円の還付金が受け取れることを知ったとすると、彼(彼女)は経済合理的な判断から、より多く働いて収入を増やすよりも、労働時間を減らして還付金をもらうことを選ぶだろう。

負の所得税による労働供給の減少効果は、すでにアメリカの一部地域で社会実験が行なわれている。それによると、負の所得税の導入によって、労働時間は5~25%程度減少し、雇用率も1~10%程度減少している。

負の所得税(ベーシックインカム)はフェーズイン段階ではプラスのインセンティブによって労働供給を増やすが、フェーズアウト段階では就労意欲を減退させるため、両者を合算すると、全体として労働供給は減少してしまうのだ。

日本では、負の所得税(ベーシックインカム)によって労働供給が増えることが当然の前提として語られているが、欧米の理論ではこうした効果は疑問視されている。



 負の所得税はミルトン・フリードマンが提唱した概念で、所得に応じて税金の還付と税金の増額を行う制度である。橘玲さんはベーシックインカムと負の所得税を同じ概念として捉えているが、ここに疑問を感じる。

 負の所得税は、労働によって得られた所得がないと生じない。所得税自体、働くことで得た収入によって成り立つものにも関わらず、それをベーシックインカムと混合すること自体大きな違いがある。

 ベーシックインカム(財源の概念についてはここでは述べないが)は、所得の有無に関係なくもらえる。働いた収入に上乗せされれば、その分個人の収入は増える。個人の労働で得た収入には大きな影響が無い。さらに現在は、マックジョブクラス・バックオフィスクラスの労働は、機械やコンピュータにとって代わられている。人手が必要な仕事も徐々に効率化・マニュアル化され、それほど人手を割かなくてもいいようになってきている。元々労働供給は減る一方なのだ。

 そこにベーシックインカムというセーフティネットを加えて、そうした事態に備えて、個人の生活や自由を保障する。それができるのは、労働に依存する現行の社会保障制度ではなく、ベーシックインカムのような労働に依存しない制度から成る

 3番の勤労所得税額控除だが、私はこうした制度こそ、現行制度における不正受給の温床になっていると考える。

 現行制度にある累進課税や還付のように、所得の額に応じて税金が変化しては、そこにどうしても「不正してでも税金で取られる所得を減らしたい」という欲望を持った輩も出てくる。そこにつけこみ、紙一重の脱税と節税を繰り返し起きてしまう。還付によって低所得者の労働インセンティブは下がらないと言うが、それこそ先ほどの負の所得税のように、還付を狙ってわざと低い所得を申請する輩が出てしまっては、現行の社会保障制度の不正受給問題と変わらない。

 4番では、橘玲さんがカテゴリー別の公的扶助政策がより効率的であることを述べ、さらにはそれを経済学的に正当化できると述べている。

 しかし、私はこの見解についてまったくもって賛同できない

 現状の日本をみればわかるとおり、日本の現行制度においてカテゴリー化は失敗している。浮いた年金問題や生活保護の水際作戦などによって、本来社会保障制度によって救われるべき対象だった人々が、該当されないという事態が起きている。それどころか、現行の社会保障そのものがうまく機能していない。

 山森亮さんの指摘では『ベーシックインカム入門』では、生活保護で5人のうち4人は受給できてないとされ、セーティネットの機能すらしていないという強い指摘がある。そうしたことからカテゴリー化による社会保障制度自体、失敗だったと言っても過言ではない

 そうした現状を取りあげずに、「経済学的に正当化できる」としてカテゴリー化を述べるのは、現状を無視した机上の空論に他ならない。プロの作家である橘玲さんが、そうした机上の空論になるような物事を書くこと自体、いかがなことだろうか。

 5番では、フードスタンプなどによる現物支給が現金支給より優れていると述べている。

 しかし、フードスタンプ(現在は改称されて「SNAP」)の場合、『ルポ 貧困大国アメリカ』の著者である堤未果さんが指摘しているように、アメリカでは政府と大企業の癒着によって、SNAPで食べられるものは不健康になりやすいジャンクフードに偏っている。国家と大企業との癒着によって、個人の食生活すら自由を奪われているのが現状だ。またWikipediaによれば、フードスタンプの不正受給による転売が、問題となっているという。

 こうしたことから、現物支給が必ずしも一律の現金支給より優れるとは限らない

 6番の不正受給が避けられない問題だが、ベーシックインカムのみならず、どんな社会保障制度でも不正受給問題(フリーライダー問題)はついてまわる

 とはいえ、それだけでベーシックインカムに対する反対を述べるには無理がある。橘玲さんは述べていないが、ベーシックインカム反対意見として「不正受給が増える」という指摘がある。しかし、不正受給自体どうやっても完璧に防ぎようがないのだ。とはいえそこであきらめずに、不正受給に対処しつつ、より一般的な受給者が受給できる仕組みを整えることが大切なのではないだろうか。これは7番についても同じことが言えるだろう。


 以上が橘玲さんに対する私のベーシックインカムの意見・見解である。「橘玲さんがベーシックインカムを認めてくれないのが問題なんだ」といったことを言うつもりは毛頭ないが、矛盾を感じるところ・疑問を感じるところをあらいざらい書き出した。

 橘玲さんが本記事を読んでくださる可能性は低いと思うが、この記事でベーシックインカム導入に対する敷居が少しでも低くなってくれれば、幸いである。


<参考>
山森亮『ベーシックインカム入門』
堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』
Wikipedia「ベーシックインカム」
Wikipedia「フードスタンプ」


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